
デザイン コンセプト スプリント 《デザインコンセプトを共創しよう》
2019.10.31

デザインのコンセプトを考えたり、トンマナを策定する作業は、
通常アートディレクターやデザイナーが、脳みそを揉みほぐしながら作っていきます。
それはデザイン思考的なプロセスを経て出来上がっていくのですが、
デザイナーだけで考えていくのではなく、クライアントも含むプロジェクトのメンバー全員で共創する方法をご紹介します。
デザイン コンセプト スプリントとは
手法
以下の5つの工程を経ることで、デザインのあるべき姿を導きだし、最終的なデザインの方向性を決定します。
- BRAND IDENTITY - ブランドアイデンティティ
- DESIGN PRINCIPLE - デザインプリンシプル
- DESIGN CHART - デザインチャート
- ELEMENT BOARD - エレメントボード
- DESIGN REVIEW - デザインレビュー
この工程は、デザインスプリントのようにワークショップで行っていきます。
こんな時に
- クライアント側に基本的なデザインのイメージがある
- デザインの良し悪しの判断基準を知りたい
- CI(コーポレート アイデンティティ)、VI(ビジュアル アイデンティティ)などを作りたい
- 新規だけでなく、リニューアルの時にも使える
利点
- プロジェクトに関わるメンバー全員で決めていくため、納得感の高いアウトプットになる
- クライアント(決裁者)もいるので、意思決定が早い
- メンバー全員で作り上げたという達成感が得られる
不向き
- ステークホルダーが多すぎる場合にはまとまらない
はじめに、ワークショップのルール
回数
作るものにもよりますが、ワークショップの回数はおおよそ4〜5回に分けて行います。1回の時間は1時間程度ですが、内容によっては2〜3時間とる場合もあります。なお、必要なメンバーが参加できることを優先した結果、週に1回にするなど、間が空いてしまったとしても構いません。
メンバー
基本的にはプロジェクトに主に関わるメンバー全員です。(クライアント・デザイナー・エンジニア・ディレクター・営業など様々な職種)
プロセス毎に決定しなければならないことがあるので、クライアントの中から決裁者を1名決め、その場には必ず参加してもらいます。
また、スプリントはファシリテーターが進行します。限られた時間の中で行うので、経験豊富なファシリテーターに行ってもらうのがおすすめです。
基本ルール
- 1枚のポストイットに1キーワード
- スプリントは個人作業とグループ作業で構成
- 個人作業では相談なし
- ディスカッションはポジティブに
大切なこと
- リラックスした状態で行う
- とにかく書いてみる
- 間違いはない、失敗もない
それでは、サボテンショップ&カフェという新しいサービスのロゴをデザインする、という架空のモデルケースを交えて解説していきます!
BRAND IDENTITY
ブランドアイデンティティを再確認しよう
そのサービス(または製品など)が持つアイデンティティとは何か?まずはインプット情報を元に、ブランドアイデンティティをみんなで再確認していきます。
インプットになるもの(事前に共有しておく)
- ペルソナ
- 競合調査
- カスタマージャーニーマップ
- サービスブループリント
- エレベータピッチなどクライアントのサービス概要がわかる資料
似たようなものでもいいので、たくさんのキーワードを書き出しましょう。書いたポストイットを読み上げながら壁に貼り付けていきます。


ヒントと注意点
ブランドアイデンティティは、顧客にどう思われたいか意識して、そのブランドの特徴を言語化していきましょう。
デザインのコンセプトを決めるには、まずはそもそものブランドアイデンティティを理解する必要があります。アイデンティティがないものからは、デザインコンセプトを作り出せません。
DESIGN PRINCIPLE
「デザインの原理」を発見しよう
デザインプリンシプルとは、つまりは最終的なデザインコンセプトやトンマナを「言語化したもの」ということになります。
先ほどポストイットで貼られたキーワードを、似た者同士でグルーピングして見出しをつけていきます。

これらの見出しが、そのサービスのアイデンティティであり、デザインの原理となるものです。
ヒントと注意点
グールーピングしていく過程で、このキーワードはブランドアイデンティティではあるけど重要じゃないよねとか、どのグループにもまとめづらいし優先度低いよね、みたいなものは思い切って除外していきましょう。
見出しはキャッチコピーのように楽しい感じになるといいのですが、キーワードを包括し、わかりやすく且つ長くならないような見出しにするのはとても難しい作業です。時間の制限もありますから一旦は仮としておいて、後から言葉をブラッシュアップしても良いと思います。
デザインプリンシプルは、プロジェクトメンバー全員で再確認することが大事なのです。
DESIGN CHART
デザインチャートでポジショニングしてみよう
そのサービスの「デザイン」とはどのような印象を持つべきなのか、いくつかのチャートでポジショニングしていきます。チャートの種類はプロジェクトによってカスタマイズしてください。数は5〜6種類あると良いです。
まずは個人作業で、それぞれのチャートを完成させるのですが、時間がかかるので宿題としてやって来てもらうのも良いでしょう。

人によってチャート両端の基準となるものが違うので「例えば」を書き込んでもらいます。ファッションに例えると、ユニクロ・しまむら・ドルチェ&ガッバーナ?自動車で例えると、メルセデス・ポルシェ・SUZUKIの軽?

共有したら投票で絞り込もう
みんなが作ったデザインチャートを、項⽬ごとに壁に張り出します。誰の作ったチャートが、最もブランドアイデンティティを反映できているかで投票していきます。1人に対して6枚程度の丸いシール(投票権)を渡します。大賛成のものには同じところに複数枚貼ってもいいですし、自分の案に貼っても構いません。

ヒントと注意点
チャートの種類はプロジェクトによって増やしても構いません。例えば、少し似たようなチャートをわざと用意し、「クールとポップ」を軸にしたチャートと「ワクワクと安心」を軸にしたチャートで、投票が高かったものが「クール」と「ワクワク」だった場合に、それってどういうことなのかな? といった議論を巻き起こすことも面白いです。
ELEMENT BOARD
エレメントボードを作ろう
ブランドアイデンティティでは、そのサービスを「言葉」で表現しました。次のデザインチャートでは、そのサービスを「印象」で表現しました。次は、「要素(エレメント)」で具体化していきます。
エレメント項目の種類や数は、プロジェクトによってカスタマイズしてください。例えばWebサイトデザインのプロジェクトであれば、「ボタンのデザイン」「グラフ」「リストのデザイン」などのエレメントサンプルも集めると良いでしょう。
「色使い」はどのようなもの? 「フォント」だと何が合う? など、エレメントごとのサンプルを集めてもらいます。
サンプル集めは個人作業の宿題にしてもらい、ワークショップの時に壁に貼りだして共有し、投票していきます。


宿題の段階では「拡散」なので、たくさんイメージを集めていただいて構いません。

共有したら、デザインチャートの時と同じようにシールで投票します。ブランドアイデンティティやデザインチャートの印象と齟齬がないかを意識しながら投票しましょう。
ヒントと注意点
スプリントでは、抽象(言葉・印象)から具体(エレメント・デザイン)に進んでいくのですが、やはり最初のブランドアイデンティティからずれないよう、見定める必要があります。逆にいうと、そのデザインが「抽象」と一致して入れば、正しくデザインされているということになります。
DESIGN REVIEW
デザインをみんなでレビューしよう
ブランドアイデンティティの言語化や、要素やトンマナの方向性について、メンバー全員が共通認識を持てたところで、実際にデザインを作ります。これはデザイナーが担当することですが、ノンデザイナーでも、ロゴの手描きスケッチなどは提案しても良いでしょう。当然、少し時間のかかる作業ですので、宿題としてやってきます。
デザイナーはデザインを壁に貼りだし、みんなでレビューしていきます。チェックする視点は、今までに決めてきたことにあっているかどうかです。


ヒントと注意点
デザインを見るときは、ブランドアイデンティティが伝わってくるか?などの視点で見るわけですが、直感で見るのも大事ですね。今までのプロセスで共通の認識が出来上がっているはずなので、そのインプットが刷り込まれた直感であれば、決して外れてはいないはずです。
レビューはあくまでもフラットな関係で発言しましょう。また、デザイナーを責めるようなこともしないように、共創の気持ちを大切に。
最後に
弊社では、サービスデザイン専門の部署もあり、スプリントマスターが在籍しています。デザイン コンセプト スプリントは、アートディレクションとサービスデザインスプリントを組み合わせて作られたものです。プロジェクトによって様々なカスタマイズも可能ですので、ご用命の際はお問い合わせください。また、サービスデザインのセミナーも開催していますので、弊社のSNSでチェックしてみてください!
用語解説
デザインスプリント
インプットからアイデアを出し、プロトタイプでテストをし、改良をしローンチするという工程を短期間で行います。事業上の課題解決や新規プロジェクトの立ち上げなどに適していて、時間やお金や労力を削減できる手法。
カスタマージャーニーマップ
顧客体験を視覚化したもので、顧客の行動と思考や感情を時間軸で表現していきます。サービスデザインでは課題発見のために重要なツールとなります。
サービスブループリント
カスタマージャーニーマップと似ていますが、サービスが提供されるプロセスを、顧客とサービス提供者の両面から視覚化したもの。
エレベータピッチ
端的に自分の持っているアイデアを伝えるプレゼンのこと。役員や決裁者と偶然エレベーター乗り合わせた時に30秒でプレゼンするというのが語源のようです。本記事では、そのアウトプット資料のことを指します。